犬の原発性門脈低形成の概要や治療法まで解説【寿命はどう?】
みなさんこんにちは!獣医師木村です。今年最後のお話は、肝数値の上昇と関わる「原発性門脈低形成:PHPV」についてお話しようと思います。
この病気は、肝臓に走行している肉眼ではわからないほどの微小な血管において、正常ではつながることのない血管同士が連絡してしまう(シャント)先天性疾患です。
疫学
この病気になりやすい犬種(好発犬種)としては、小型犬種であるトイ・プードル、シー・ズー、マルチーズ、ヨークシャーテリア、ミニチュア・シュナウザーなどが挙げられます。
臨床徴候
わかりやすい症状はなく元気であることがほとんどで、他の子と比較してやや小さめだったり、毛つやが悪いと感じる程度であったりで、実際に血液検査をしてみない限りはわからないことが多いといわれています。まれに門脈体循環シャント(PSS)という、もっと太くて大きな血管でシャントが起こる病気が続発した場合(下図)は、肝性脳症の徴候(嘔吐、流涎、下痢、腹水、痙攣など)を呈することもあります。
診断
検査内容での異常は、血液検査でALT,ALPなどの肝数値、TBA(総胆汁酸)の上昇、重症例ではアンモニアの上昇やBUNの低下などが検出されます。
これらの異常は、避妊・去勢手術の術前検査や、定期健診で偶発的にみつかることが多く、診断時年齢中央値は2.85歳となっています。
尿検査でも、やはり重度にならないとわかりませんが、尿酸アンモニウム結晶が検出されることがあります。
残念ながら、一般的な検査(血液検査、レントゲン、超音波検査)では確定診断することは不可能で、最終は造影CT検査および、肝臓の一部を切り取ってきて組織学的検査をすることにより診断されます。
治療法
根本治療はなく、手術での治療も不可能な病気であるため、基本的にはPSS発症や肝性脳症を疑う徴候や検査結果が出ない限りは内服薬などでの対症療法での治療がメインになります。たとえば、肝数値の上昇に対しての強肝剤、肝庇護剤などが挙げられます。
罹患が疑われる子に対して
PHPV単独の症例では予後良好であることが多く、(観察期間5年間においてPHPVが原因での死亡数が16頭中0頭)何も問題なく生涯を過ごせることもある病気です。まずは定期的な検査をすることで血液検査数値に悪化がないか、また肝性脳症の徴候がでていないかを日頃から観察することが重要になるでしょう。
肝臓数値の上昇の原因は多岐に渡り、日常の診療においても比較的遭遇しやすいものです。定期健診でいつも肝数値が高い、でも全然調子が悪いところがないんだよなー、なんて子の一部はこんな病気をもってる可能性がありますよ、というお話でした。
では、よいお年を!!!
獣医師 木村(ALP高め)