腎臓病と麻酔
こんにちは!今月は腎臓の悪い動物に麻酔をかける際に気を付けていることをお話ししたいと思います。
前回は、心臓が悪い症例の麻酔についてお話ししました。今回は特に高齢の子で多くなってくる腎臓病と麻酔との関連についてお話ししようと思います。
心臓に続いて、腎臓が悪いことから麻酔をかけての検査や手術を懸念されるオーナーさんは多い印象を受けます。そこで、今回は慢性腎臓病の動物に麻酔をかけるときに我々が気を付けていることをいくつかご紹介します。

十分な輸液
1つ目は、慢性腎臓病患者では、多尿傾向であり、体が脱水しやすいという特徴があります。腎臓が健康であれば、尿として体の外に出されるのはいらない分のみとなり、必要な水分は再吸収という形で体内に戻ることが出来るのです。ずっと水を飲んでなった時に尿が濃くなっているというのが、たくさん水分を再吸収している時のわかりやすい状態ですね。みなさんも寝起きは比較的濃い尿になることが多いはずです。しかしながら、慢性腎臓病が進行してくると、体が水分を必要としていても再吸収能が落ちてしまっていて、必要なはずの水分まで尿に排泄されてしまうのです。そりゃ脱水が進むわけです。
麻酔中は、もちろん水を飲むことができないので徐々に体内は脱水していきます。このスピードが健康な子と比較すると速いため、それだけたくさんの水分を点滴で補給してあげなければなりません。
より厳密な血圧管理
2つ目は、腎性高血圧になっている症例が多いことに関係します。血圧は、覚醒状態ではなるべく一定に保たれていますが、麻酔をかけると、この機能が抑制されて基本的には低血圧傾向になります。一般的に言われている麻酔中の目標血圧は平均動脈血圧が60mmHg以上とされていますが、慢性腎臓病患者では、元々高血圧傾向の症例も多いためな、麻酔中も少し高めに血圧を保ってあげなくてはなりません。そうしないと、腎臓や脳など重要な臓器に血流が行き届かなくなるのです。
腎臓に負担のかからない麻酔薬選定
3つ目は、使用する薬剤の選択です。例えばよく痛み止めでNSAIDsと分類される消炎鎮痛剤(人間のお薬で例えるとロキソニンなど)は腎臓に負担がかかるため、可能な限り使用しないで、その他の薬剤を組み合わせて痛みを押さえていく必要があります。
最後に
その他にも、体の酸塩基バランスを酸性に寄り過ぎないように輸液を調整したり、痛みによる血管収縮を極力抑えるために適切に局所麻酔を実施するなど、多方面から腎臓保護に努めます。
上記のリスクを予測して麻酔合併症(特に麻酔後の急性腎障害)を最小限にするよう麻酔プロトコルを組んでいきます。
腎臓が悪いからといってそれが麻酔に必ずしも耐えられないというわけではありません。年齢や体格、実際のその子に麻酔をかける時点での体調などを総合的に判断して、麻酔をかけて治療および検査するメリットと、麻酔のリスクを考えて最終的にその実施を決定します。
これから手術や麻酔下での検査を控えている方はぜひ参考にしてみてください。
次回は肝臓がわるい症例に対する麻酔についてお話しします。
獣医師 木村(お水は1日1.5L!)