副腎皮質機能亢進症と麻酔について
こんにちは、獣医師の木村です。
今回はまた麻酔のお話しに戻って内分泌疾患と麻酔に関するお話をします。
今月は、副腎皮質機能亢進症と麻酔との関連です。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は、特に犬でよくみられる内分泌疾患です。この疾患により慢性的に高くなっているコルチゾール値は体に様々な影響し、麻酔リスクに繋がります。副腎皮質機能亢進症の動物に麻酔をかける場合にどのようなリスクが想定されるのかと、より安全に麻酔を行うために何に注意すべきかを解説します。

副腎皮質機能亢進症とは
副腎皮質から過剰にコルチゾールが分泌される病態で、
・下垂体性(PDH):ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の過剰分泌
・副腎腫瘍性(AT):腫瘍によるコルチゾール過剰分泌
・医原性(長期のステロイド投与による)
に分類されます。
犬では一般的で、猫では比較的まれですが、どちらにも見られます。副腎皮質機能亢進症が麻酔リスクを高める理由とその予防、対処方法は以下のとおりです。
内科的管理が不十分なら手術を急がない
本疾患に罹患している動物に麻酔が必要な場合は、まずは内科的に病気のコントロールを行ってから望むのが理想です。基礎コルチゾール値が7.2µg/ml以下にコントロールされている症例では、生存期間が長かったとの報告もあります。
心血管系への影響
コルチゾール過剰は、高血圧、動脈硬化、心拡大・心肥大傾向を呈しやすく、麻酔薬によって血圧が大きく変動しやすくなるため、特に低血圧に注意が必要です。また、痛みを感じると、血管は収縮し、心拍数が上昇することで血圧を上昇させますが、特に血管収縮は血栓形成のリスクを高めます。必要に応じた循環作動薬を適宜用いて適切な血圧を維持します。
易感染性
本疾患に罹患している動物は、コルチゾールの影響によりインスリン抵抗性が高まることで、高血糖になりやすい状態になっています。また、コルチゾールには免疫抑制作用もあり、感染リスク上昇に影響します。適切な抗菌薬を使用し、消毒も入念に行うことで手術による感染を最低限に抑えます。
呼吸器系の問題
本症例に罹患している多くの患者では、肝腫大になっていることが多く、大きくなった肝臓が横隔膜を圧迫し、横隔膜の運動を抑制します。また多食になっている患者も多く、肥満傾向であることが多いです。肥満によって胸腔内の脂肪が増加して、肺が膨らみにくくなり、換気障害が起こりやすくなります。特に、機能的残気量(FRC)という、息を吐き切った後に肺に残っている空気の量が少なくなり、低酸素になりやすいという特徴があります。これらに対しては、人工呼吸による陽圧換気を実施することで、低換気、低酸素を防ぎます。
術後の癒合遅延
コルチゾールの過剰分泌は、皮膚のコラーゲン生成能を抑制し、真皮の部分が薄くなります。また、皮膚のターンオーバーも抑制してしまい、バリア機能が低下し、感染に弱くなってしまいます。よって、手術創の観察を普段以上に丁寧におこない、消毒もより入念に行います。また、手術後も術創の裂開が起こりやすいので、術後も入念に観察を続ける必要があります。
凝固異常
健康な犬と比較して、血栓の合併症が4倍にもなるとの報告があります。
高コルチゾール状態により体内で生成される凝固因子が増加し、逆に血栓を溶かす方向を促進させるアンチトロンビンという成分は低下してしまいます。これらにより血液が凝固しやすい状態になっており、血栓リスクが上昇します。特に長時間の麻酔がリスクになります。ヒトでも長時間同じ姿勢をとっているとエコノミー症候群になるのと同じように、麻酔中はずっと同じ姿勢になることが多いので同様に注意が必要になります。
また、前述したように術中の刺激による血管収縮も、血栓リスクを高めるため、麻薬性オピオイドや局所麻酔を適切に使用することで、しっかりと鎮痛薬を使用して、そのリスクを低減させる必要があります。
最後に
今回もカロリー高めの内容となりましたが、私個人もクッシング症候群の症例に麻酔をかける際は、とても神経を使いながら挑んでいます。術中のみならず術後血栓リスクや、術後感染、術創裂開リスクとも戦わなければならないので、無事に退院して、抜糸が終わるまでは気が抜けません。実際に術後肺血栓塞栓症を疑ったケースに遭遇したこともあります。
リスクを理解していても、合併症が起こってしまうことはあるので、それが起こった場合にも備えて万全の準備で麻酔に挑むことが重要と考えています。
これから手術や麻酔を控えている患者さんにとって有益な情報となれば幸いです。
来月は、ようやく最後になりますが、糖尿病と麻酔についてお話しします。
獣医師 木村