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糖尿病と麻酔について

こんにちは、獣医師の木村です。

今回は内分泌疾患と麻酔に関するお話の最終投稿です。

今月は、糖尿病との関連です。

糖尿病は、犬、猫でともにみられる内分泌疾患です。この疾患に罹患することで、様々な全身性の影響をもたらし、麻酔のリスクを上昇させることが知られています。今回は糖尿病の動物に麻酔をかける場合にどのようなリスクが想定されるのかと、より安全に麻酔を行うために何に注意すべきかを解説します。

予定手術では、事前に治療を十分に行う。

ヒトでは全身麻酔を行う場合に、新たな糖尿病患者では、治療が十分な患者および非糖尿病患者と比較して合併症発生率や死亡率が高くなり、入院期間が延長すると報告されています。予定手術の場合は、可能な限り糖尿病を治療した上で麻酔に挑むのがよいでしょう。

脱水や電解質の異常を補正する必要性

糖尿病患者では、尿中の糖により浸透圧利尿がかかることで脱水になりやすく、同時にナトリウムやカリウムなどの電解質も崩れやすい状態にあります。特に麻酔当日は絶食絶水の影響もあり、普段よりもバランスが崩れています。適切な輸液を実施して、麻酔前のこれらの状態を安定化させることが重要です。

血管内皮障害に起因する全身への影響

糖尿病患者では、その病態によって、全身の血管内皮が肥厚、粥状性大動脈硬化、血管拡張障害が生じています。この変化により、心血管系、中枢・末梢・自立神経系、腎臓、眼の機能に異常をきたします。特に、脳、心臓、腎臓は生命に直結する臓器の保護の観点から、よりシビアに適切な血圧を維持する必要性があります。例えば、脳への血流を十分に維持するためには、非糖尿病患者よりも高い平均動脈血圧が必要になります。処置内容や患者の容態によっては、観血的血圧測定を実施する場合もあります。

突発性の糖尿病原性ケトアシドーシスを避ける

糖尿病原性ケトアシドーシス(DKA)は、インスリン不足により、細胞がブドウ糖の代わりに脂肪をエネルギー源として使うことで過剰産生されたケトン体が重篤な全身状態の悪化を引き起こす病気です。一般的には、糖尿病の治療が不十分な場合に起こりますが、全身麻酔や外科処置などでの強いストレスを受けた場合に発症することがあります。

これは、ストレスホルモンの分泌増加がインスリン抵抗性を上昇させることが一因になります。これを防ぐために適切な麻酔薬、鎮静薬、オピオイドを中心にした鎮痛薬を選択します。例えば、ケタミンは間接的に交感神経を刺激するため、高血糖を悪化させる可能性があるため、慎重に使用する必要します。

なによりも血糖値を正常に保つ

高血糖は好中球機能低下による術後感染リスクの上昇や創傷治癒遅延を含めた合併症を引き起こし、また低血糖も全身の代謝機能に影響を及ぼし生命維持に直結します。

麻酔中は、30~60分おきに血糖値を測定し、適切に糖やインスリンを投与して正常に保ちます。(おおむね150~250mg/dl)

最後に

糖尿病患者に対する麻酔では、上記の他にも気を付けるポイントがあり、麻酔をかける上では内分泌疾患の中でも厄介な病気です。

しかし、各病態と麻酔との関連を理解して起こりうる合併症を予測することで、より安全に、また迅速に合併症に対処することがか可能になります。

お家族の糖尿病のわんちゃん、ねこちゃんがこれから麻酔処置を控えていたり、糖尿病の存在により麻酔ができないと言われて治療を諦めてしまった方の一助となれば幸いです。

獣医師 木村