犬種、猫種別の麻酔について
こんにちは!今月は先月に引き続き麻酔に関する知識をお話ししようと思います。
前回は、麻酔のリスク評価についてお話しさせて頂きました。漠然とした不安が数値化されることで、麻酔をした場合と、しない場合のリスクをよく検討することでその選択をしやすくしてくれるのではないかと思います。
今月は、犬猫の品種ごとの麻酔をかける上での危険因子と対応についてお話しします。

短頭種
まずは有名なお話しで、短頭種(パグ、ブルドック、ボクサー、ペキニーズ、ペルシャ猫など)は、短頭種気道症候群(外鼻孔狭窄、軟口蓋過長症、喉頭小脳反転、気管低形成など)によりうまく呼吸状態を維持できなくなるリスクが増加します。危険なタイミングは、ほとんどは麻酔導入時、もしくは覚醒時です。
麻酔導入前の酸素化をしっかり行い、覚醒時はほぼ完全に覚醒してから気管チューブを抜管するなどの対応が大事になります。また、大型の子では胸郭に筋肉量が多く肺が膨らみにくい場合もあるので、麻酔中も換気(ちゃんと二酸化炭素を吐き出せているか)のモニターを含めた、様々なところを注視する必要があります。
サイトハウンド
イタリアングレーハウンド、ウィペット、ボルゾイなどに代表されるこの子たちは、薬物の代謝酵素が少ない可能性が言われており、使用する薬物量を慎重に決定する必要があります。また、すらっとした見た目からもわかるように体脂肪率が低いことで、低体温になりやすいことなどが挙げられます。また、ストレスや痛みにより高体温も生じやすいため、加温や適切な鎮痛剤・鎮静剤の使用など、それぞれに対応した処置を行います。
トイ腫
いわゆる超小型犬の子たちを指します。最近では2kgに満たないチワワ、ポメラニャン、プードルなどは珍しくなくなってきています。感覚的に想像がつくかもしれませんが、小さいからだゆえに体温保持が難しいことや、エネルギー貯蓄量も少ないため、低血糖を起こしやすいです。
上記の他にも、
・ドーベルマン(フォン・ヴィルブランド病、拡張型心筋症)
・ボクサー(アセプロマジン高感受性、ボクサー心筋症)
・コリー犬(MDR1遺伝子変異による薬物蓄積)
・ミニチュアシュナウザー(洞不全症候群)
・純血猫種(心筋症)
など、その品種それぞれの特徴があります。もちろん、これらの異常の遭遇率は高くありませんが、麻酔計画を立てる上で、必ず想定に入れておき、いざとなったら対応できるように準備を行います。
さいごに
麻酔には必ずリスクは伴います。100%安全な麻酔はありませんが、麻酔のリスクを想定し様々な対応策を事前に準備したうえで麻酔をかけることで、事故を極限まで減らす努力をする獣医師の存在が、なによりも安全な麻酔へつながると考えています。
今回は、品種別の麻酔に関してお話ししました。次回は、各疾患を持っている子たちに麻酔が必要になった場合の危険因子やその対応についてお話ししようと思います。
獣医師 木村