肝臓が悪い場合の麻酔について②
こんにちは!今回は、前回に引き続き肝臓と麻酔との関連についてお話しします。
前回は、肝性脳症、低血糖、低カリウム血症、低体温についてお話ししました。
今回は、低アルブミン血症、血液凝固異常、薬物代謝遅延と少しややこしい内容のお話をします。

低アルブミン血症
アルブミンとは、肝臓でつくられる血漿タンパク質のひとつで、血液中に最も多く存在します。この物質の役割は、主に様々な体内物質の運搬、血管内の水分量の調節です。
例えば、肝臓の機能が低下してアルブミン生成量が低下すると、血液中のアルブミンが少なくなり、血管内に水分を留める力が低下してしまいます。(これを膠質浸透圧の低下といいます。)そうすると、血管から水分が血管外(間質)に漏れていき、浮腫(いわゆるむくみ)が生じます。
これは、血圧と関連し、膠質浸透圧が低下すると、どんどん血管内の水分が失われてしまい、血圧を保つのが難しくなります。
対処法として、輸血、HES製剤、犬猫アルブミン製剤(実際には高価かつ、入手が困難なことが多いです。)などによって、膠質浸透圧を保持することで循環を維持する必要があります。輸液のみを過剰に入れ過ぎると入れた分がどんどん間質に漏れていき、浮腫になるばかりか血圧も上がらない、さらなる血液希釈による膠質浸透圧低下の悪循環になる可能性があるので、慎重に実施する必要があります。
血液凝固異常
体内では、以下の図のように、複雑な仕組みによりにより止血作業が行われています。
肝臓では、体内、体外で出血したときに止血ができるようにするタンパク質の一部が生成されています。(凝固因子といいます)。凝固因子は全部で12個あり、そのうち、肝臓では主に、第II、V、VII、IX、X因子などが合成されます。これらが不足すると、血液凝固時間の延長が起き、出血が止まりにくくなります。
術前には、血液凝固検査を行い、異常が出ないかを確認することで未然に防ぐことが重要です。凝固延長が起こってしまっている場合は、手術内容によっては、不適応になる場合もあり、絶対に見逃せない異常なので、当院では、手術前に必ず検査を実施しております。
薬物代謝遅延
最後になりますが、肝臓では、毒物、薬物の代謝の多くも担っています。
もちろん、麻酔薬も例外ではありません。多くの麻酔薬は、肝臓によって代謝、分解され、腎臓から尿として排泄する経路を辿ります。
低アルブミン血症も起こっている場合は、さらに薬物代謝の遅延が起こる可能性があるため、慎重に投与量を調整する必要があります。
例えば、麻薬性鎮痛薬に代表されるフェンタニルは肝臓代謝ですが、レミフェンタニルは主に血液中および組織内に存在する非特異的エステラーゼによって代謝されるため、こちらを選択するのが望ましいです。
最後に
今回で肝臓と麻酔のお話は終わりになります。
今週から毎週金曜日は、他院にて麻酔科の研修に参加することになり、私の出勤が週4回となります。担当させて頂いている患者様には大変なご不便およびご迷惑をおかけしております。研修で学んだ分、これからはさらに安全な麻酔を心がけて、また普段の診察にも活かしていきながら精進してまいりますので、今後ともよろしくお願い致します。
獣医師 木村(29歳と12カ月になりました。)