役立つ話病気

内分泌疾患と麻酔について~甲状腺機能亢進症~

こんにちは、獣医師の木村です。

今月はまた麻酔のお話をしていきます。疾患別の麻酔について話してきましたが、今回は内分泌疾患を抱えている子に麻酔をかけるときに注意していることについてお話しします。

内分泌疾患とひとくくりにいってもわかりにくいですが、犬猫で多いものでいうと、

・甲状腺疾患(甲状腺機能亢進/低下症)

・副腎疾患(副腎皮質機能亢進/低下症)、副腎腫瘍(副腎腺腫/腺癌/褐色細胞腫、それに伴う原発性アルドステロン症)

・糖尿病

が主に遭遇しやすい疾患です。上から順番に麻酔時の注意事項を挙げていきます。今回も一回では伝えきれないため、複数回に分けて解説していこうと思います。

①甲状腺機能亢進症

主に中~高齢のネコちゃんで罹患していることが多い病気です。

甲状腺は、簡単に言うと元気になるホルモンを分泌している臓器なので、これが甲状腺腺腫や甲状腺癌(猫ではまれ)によって甲状腺ホルモン分泌が異常に増加する状態になります。

麻酔時に注意するのは以下のポイントです。

・高血圧、頻脈

この病気では、アドレナリンβ1受容体数の増加に関連して多くの症例で高血圧、頻脈傾向になっている傾向があります。

腎臓のときにもお話ししたように、麻酔をかける際は血圧の低下は避けられない事象になります。この低下の程度の許容範囲は覚醒時の血圧を知ることが重要であり、元々高血圧傾向の患者さんでは、麻酔時も普段目標にしている血圧よりも高めに維持することを心がけています。

頻脈について、通常状態でも頻脈の患者さんに、さらに頻脈を悪化させる状況になると、うまく心臓のポンプ機能が維持できずに結果的に心筋虚血、うっ血性心不全、低血圧などを招くことになります。よって、過剰な頻脈にならないように適切な麻酔深度の管理、薬剤、鎮痛薬をうまく使用してレートコントロールを行います。

・甲状腺中毒に伴う心筋症の併発

 甲状腺中毒により、二次性肥大型心筋症に罹患しているねこちゃんは一定数います。

私が麻酔を担当する際は、中~高齢猫のほぼ全症例で術前検査にて、心臓超音波検査を実施しています。明らかに心筋の肥大が認められた場合は、それに応じた麻酔中の薬剤選択を行います。この疾患の有無で、特に血圧維持に使用する薬剤選択が変化するため、特に重要視しています。

・カテコラミン使用、疼痛など交感神経刺激による不整脈の誘発

元々カテコラミン感受性が高まっていて興奮しやすい状態なので、それをさらに悪化させる薬剤の使用を避け、不十分な疼痛管理にならないよう心がけています。当院では、麻薬性オピオイドやその他の全身性鎮痛薬を併用したマルチモーダル鎮痛、また局所麻酔を適宜使用しております。

・代謝の増大

頻脈や高血圧によって、肝臓の血流も増大します。麻酔中に使用する薬剤の多くは肝臓で代謝されます。よって、肝血流が豊富だと薬剤の代謝も亢進されて効果時間の短縮、効くまでの時間の遅延が想定されます。薬剤の使用量から常に患者さんのバイタルや麻酔モニターを確認し、適宜薬剤用量を調整して投与する必要があります。

最後に

少し小難しい内容になってしまいましたが、今後大切なご家族に麻酔が必要となった際の参考になればと思います。

無心でここまで書いてみましたが、思ったよりもボリューム満載になってしまったので、また来月に続きをお話ししようと思います。

獣医師 木村