役立つ話病気

内分泌疾患と麻酔について~甲状腺機能低下症~

こんにちは、獣医師の木村です。

今月は、先月に続いて、内分泌疾患を抱える患者さんに麻酔をかける上で注意していることを紹介していきます。

今回は、甲状腺機能低下症の場合をお話しします。

甲状腺機能低下症の症状、診断、治療については、以前に日向野先生が紹介してくれているので、そちらをご参照いただけたらと思います。

まず初めに、麻酔と関連して注意することは複数ありますが、この病気に対しては、個人的には大きな事故につながることは多くないと考えています。その中でも、異常が生じた際、またそれを予防するのに気を付けていることを紹介します。

昇圧剤での反応が悪い

この病気の患者さんでは、カテコラミンβ1受容体がダウンレギュレーションしている傾向があり、そこに作用する薬剤の効き目がわるいことが知られています。(エフェドリン、ドパミン、ドブタミンなど)。よって、深い麻酔状態になってしまった際に、迅速に血圧を上昇させることがむずかしくなります。なので、麻酔薬の必要量を少しでも減らすため、麻酔薬だけに頼らずに、色々な鎮痛剤や鎮静剤など組み合わせて、適切な麻酔深度を意識していきます。これをバランス麻酔と呼びます。また、カテコラミン受容体に依存しない作用で強心作用や血管収縮作用のある薬の準備も行う場合もあります。

徐脈、不整脈、低体温

本疾患に罹患すると、上記のような傾向になりやすいため、積極的な保温や、心拍数の維持、心電図のモニタリングを徹底して行います。

低酸素、低換気状態に対する体内反応の低下

体の中には、酸素が足りなくなったり(低酸素)、または二酸化炭素が蓄積しすぎた時(低換気)に、それを元に戻すための機能が存在します。

低酸素になると、それを体内の受容体が感知して積極的に呼吸を促す働きがあります。

しかしながら、その機能が鈍ってしまうと、極端に表現すると窒息に近い状態でも換気が十分に行われない、呼吸しようとしない傾向になります。さらに、本疾患の患者さんは肥満になっていることも多く、胸郭周囲に蓄積した脂肪が肺を膨らみにくくすることで(肺コンプライアンスの低下)、さらなる酸素化、換気状態の悪化を招きます。麻酔薬の使用でもこの機能は低下するため、特に麻酔覚醒時に適切に酸素化、換気が行われているかモニタリングを継続することが重要です。

その他にも、、

その他にも、貧血傾向であったり、慢性的な高脂血症により粥状動脈硬化になっていたり、消化管蠕動運動が低下している、腎血流量が低下しやすいために術後腎不全のリスクが高いなど、様々な異常を伴っている場合もあります。

最後に

当院では、中高齢の患者さんに麻酔をかける予定がある際は、事前に甲状腺ホルモンの数値(T4,fT4,TSH)を測定し、必要であれば治療を行ってから麻酔に臨むことで、思い掛けない麻酔事故を未然に防ぐよう努めています。

次回と最後は、副腎皮質機能亢進症、糖尿病と、内分泌疾患の中でも麻酔リスクとの関連が深い疾患のお話をしたいと思います。

追記、試験に合格しました!

私事にはなりますが、去年から今年にかけて受けていた、獣医麻酔外科学会の定める「動物麻酔技能認定医」に無事合格することができました。

患者様の中には、診察時に麻酔科研修の応援のお言葉をかけて頂いた方もおり、大変励みになりました。これからもより安全な麻酔管理に努め、実践していこうと思います。

最近は真面目なお話が続いているので、そろそろ旅行ブログで一息着こうかなとおもいます。

獣医師 木村