病気

SFTSについて②

前回投稿に引き続きSFTSの特徴、診断・治療について記載していきます。
本記事は2025年10月時点での情報になりますので、最新の情報をご確認ください。

原因

ブニヤウイルス目 フェヌイウイルス科 バンダウイルス科 Dabie bandavirus (SFTSウイルス)
一本鎖マイナスRNAウイルス エンベロープあり 三分節構造 球形80~100nm

感染経路

マダニ媒介(マダニに刺される)、感染動物との接触(血液、体液、排泄物など)、ヒト-ヒト感染
マダニ媒介のため、ピークは春から秋であるが、感染は年中認められる。
予防薬の使用により、マダニを生活環境内に持ち込まないことが大切。
なお、予防薬はSFTSの感染を防ぐことはできないことに注意が必要。
日本において主に媒介するマダニはフタトゲチマダニとタカサゴキララマダニであるが、冬を越すマダニ(キチマダニなど)がおり、冬の間も油断はできない。
一番の対策は完全室内飼育か?
※Hiromu O.らの報告によると感染疑い猫において、室内飼育、室外飼育の間に優位差なし

症状

潜伏期間6~14日


臨床症状
発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)がメイン。さらに、腹痛、筋肉痛、神経症状、リンパ節腫脹、出血症状など。
血小板減少(10万/㎣未満)、白血球減少(4000/㎣未満)、血清酵素(AST、ALT、LDH)の上昇
疑い例発見時においてはCRPの上昇は基準値以内であることが多いようである。
合併症
第7病日頃が臓器不全を合併しやすい時期。
血球貪食症候群、急性脳症、消化管出血・出血傾向、菌血症(細菌・真菌)、侵襲性肺アスペルギルス症、急性腎障害、心機能障害・心筋炎、横紋筋融解症など
致死率
全体で約10~30%程度。
高齢ほど高リスク。死者は50代以上でしか見られない。
若齢は風邪様症状のみで済むことも。
患者は高齢者に多く(年齢中央値 75 歳)、60 歳未満の症例は 11%である。

犬・猫
臨床症状
発熱段階:発熱、頭痛、胃腸症状、血小板減少症、白血球減少症、リンパ節腫脹、高血清ウイルス量。
多臓器機能障害段階:出血症状、神経症状、持続的な血小板減少、播種性血管内凝固(DIC)、多臓器不全。
回復期:ウイルス排泄。

基本的に急性発症。活動性低下、食欲不振、発熱、黄疸、嘔吐、消化器症状など。
(赤血球増加)、白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇、CK上昇、T-Bil上昇、炎症マーカー上昇。

獣医療関係者の SFTS 発症動物対策について(2025 年バージョン)https://www.niid.jihs.go.jp/content2/research_department/vet/animal-borne-2_2025-06-10.pdfより

項目 感染後の経過
体重 3~8日後に減少
体温 7~10日後に最高
尿 6日後に濃いオレンジ色へ
白血球数 3~7日後に減少(回復症例は10日後に改善)
血小板数 1~10日後に減少(回復症例は14日後に改善)
赤血球数 1日後に減少
ヘマトクリット 1日後に減少
ALP 重症猫にて顕著な減少
TBIL 3日後から顕著に上昇
尿比重 重症猫で上昇(≧1.030)
尿中ウロビリノーゲン 重症猫で上昇
尿中ビリルビン 重症猫で上昇
尿中タンパク質 重症猫で上昇

Eunsil P. et al. Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Phlebovirus causes lethal viral hemorrhagic fever in cats. Sci Rep 9, 11990 (2019). より

犬は猫と比べると比較的軽度であることが多い。
つまり、無症状感染の犬から周囲へ感染が広がる可能性あり。
致死率
犬:47% 猫:62.3% ほとんどの場合、発症から7日以内に死亡。
年齢差はない。
致死症例においては液性免疫の誘導が阻害されているようである。

診断

病原検査 血清(口腔スワブ、肛門スワブ) RT-PCR、real-time RT-PCR(ウイルス分離)
抗体検査 ペア血清 急性期と1週間後の血清 ELISA(間接蛍光抗体法 中和試験)
なお、検査実施可能な機関は調べる必要あり。二度陰性になったことを確認して陰性とする。
SFTS診断依頼書:https://www.niid.jihs.go.jp/images/vet/animal-borne/animal-borne-3_2024-07-04.pdf
フローチャートはhttps://www.niid.jihs.go.jp/content2/research_department/vet/animal-borne-2_2025-06-10.pdfに記載あり

Osako H.らの基準 
体重 ≥ 2.95 kg(1 point)、RBC ≥ 697 × 10⁴ cells/µL (2 points)、WBC <6370 cells/µL (1 point)、AST ≥ 38 IU/L (1 point)、TBil ≥ 4.05 mg/dL (1 point)として計算し、3.5 points以上で疑い。感度88.2%、特異度64.5%。

Hiromu O. et al. Clinical Factors Associated with SFTS Diagnosis and Severity in Cats.より

行政検査の流れと検体の梱包 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001229138.pdfより

鑑別


感染症【感染性下痢症、敗血症、急性脳炎/脳症、リケッチア症(つつが虫病、日本紅斑熱)、アナプラズマ症、デング熱、マラリア、エーリキア症】
その他【消化管出血、悪性リンパ腫/白血病、血球貪食症候群、決戦性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群、全身性エリテマトーデス】
動物
パルボウイルス、リンパ腫など
(免疫不全、血液疾患、腫瘍)

治療

治療法なし
支持・対処療法のみ

入院中の治療は皮下輸液や静脈内点滴による体液補正、制吐剤や抗けいれん薬などの対症療法、二次感染予防を目的とした抗菌剤の投与が中心。
重度の消化管出血を伴うことから発熱に対する NSAIDs の投薬は避ける。
退院のタイミングは3~7日おきに血中ウイルス遺伝子を測定し、2度陰性になったことを確認する。(退院後も濃厚接触を避け、1週間はケージ内で飼育する。)

獣医療関係者の SFTS 発症動物対策について(2025 年バージョン)https://www.niid.jihs.go.jp/content2/research_department/vet/animal-borne-2_2025-06-10.pdfより

人において
血漿交換、G-CSF、ステロイドなど ※ステロイドは予後不良因子とする報告もあり
解熱鎮痛薬は抗血小板作用のないアセトアミノフェンが勧められ、禁忌に該当しないことを確認し、抗ウイルス薬(ファビピラビル)をできるだけ早期に使用することを検討する。
2024年に抗ウイルス薬「ファビピラビル」が国内でSFTSに対しての適用が追加承認された。
遺体処理方法にも注意が必要。血液・体液が漏出しないよう綿などで処理し、自治体と相談が必要?

予後

発症から2~3週間ウイルス排泄される。
回復期の症例では早期にPCRが陰転化する可能性があり、注意が必要である。
予後因子(研究段階)
ALT、AST、TBIL、CK、血清アミロイドA、インターロイキン-6、TNF-α、ウイルス特異的IgMとIgG、血清中RNA量
(血清中RNA量はWBCの量と負の相関関係あり、ウイルス量のピークとWBC最低点のタイミングはほぼ同じ)

対策

完全室内飼育?
予防薬の使用(性質上感染は防ぐことはできない)
忌避剤の使用(ディートやイカリジンなどがマダニに対して有効であるが、これらは動物に対して使用することができず、非現実的か)
院内において
PPE:二重のグローブ、N95マスク、フェイスガード、ガウン
消毒:70-90%エタノール、次亜塩素酸Na、加熱(60℃ 30min)、UV(20 min)等

参考

動物病院向け 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)対応ガイドブック
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002v5pa-att/2r9852000002v5qr.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000169522.html
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/12668-sfts-ra-0801.html
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/IASR/Vol46/546/546r08.html
https://www.fujifilm.com/fftc/ja/news/332
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001229138.pdf
https://www.niid.jihs.go.jp/content2/research_department/vet/animal-borne-2_2025-06-10.pdf
Eunsil P. et al. Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome Phlebovirus causes lethal viral hemorrhagic fever in cats. Sci Rep 9, 11990 (2019). https://www.nature.com/articles/s41598-019-48317-8
Hiromu O. et al. Clinical Factors Associated with SFTS Diagnosis and Severity in Cats.Viruses. 2024 May 29;16(6):874. https://www.mdpi.com/1999-4915/16/6/874
Yukiko M. et al. Elucidation of prognostic factors in the acute phase of feline severe fever with thrombocytopenia syndrome virus infection. J Vet Med Sci. 2023 Dec 29;86(2):211–220.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10898982/

獣医師 佐藤🛖