前十字靭帯断裂について
今回は前十字靭帯のお話になります。犬でびっこをひいている子たちの中で、前十字靭帯の断裂が一般的なものの1つに挙がります。早速どのような病態か見ていきましょう!
前十字靭帯とは
前十字靭帯は、膝関節にある靭帯の1つで、膝関節の過度な伸展を防止し、脛骨が前へ出ないようにし、後肢全体が内旋しないように制御しています。
断裂するとどうなるの?
前十字靭帯が断裂すると、膝関節の安定性を損ない、脛骨が前方へ変位し過度の内旋が生じます。これによって後肢を挙げたり引きずったりするようになります。約半数が両側の後肢の断裂が起きると言われており、断裂した症例では半数以上が膝関節のクッションの役割をしている半月板の損傷を併発すると言われています。
原因
犬では真の外傷によって断裂が起きるのは稀であり、ほとんどが背景に加齢性の変化や基礎疾患による変性性変化が生じており、そこに散歩や階段を上る動作などの日常的な負荷によって断裂することが多いです。特に小型犬では膝蓋骨内方脱臼症に続発することが多いです。
診断
まずは視診や触診で前十字靭帯断裂があるかを見ていきます。飼い主様が気付く所見としては、びっこを引いたり、座っている時に断裂している方の足を外側へ投げ出すようになったり、歩く時に腰を左右に振って歩くようになったりします。触診では筋肉量の左右差や、大腿骨と脛骨のズレ具合などを見ていきます。
その後レントゲンで大腿骨と脛骨の位置関係の確認とファットパッドサインという脂肪が変性したときに見られる異常などを確認していきます。近年では関節鏡やエコーやMRIなどが行われることも多くなっています。
治療
前十字靭帯断裂の治療法として保存療法と外科療法があります。診断時の重症度によって保存療法よりも外科療法が第一選択となる場合も多いです。
保存療法
断裂による関節の痛みを緩和する目的で痛み止めの投与を行います。同時に安静が大事で、ケージレストと言われる運動制限が重要となってきます。保存療法では体重が15kg以上の犬や半月板を損傷している症例では慢性的な関節の痛みや運動機能の低下が残ってしまう場合があります。
外科療法
外科療法は、保存療法に反応しない症例や半月板損傷が疑われる症例、膝蓋骨脱臼が併発している症例などで推奨されます。今まででいくつもの術式が考案され、今では手術の成功率は90%前後であると言われています。保存療法よりもより早期の回復が見込まれ、術後経過での慢性的な病態にもなりにくいです。
以上が前十字靭帯断裂でした!
びっこを引いている症例では見た目や症状だけでは何が原因かわからないので、もし気になる歩き方などしていたら一度ご相談ください!
獣医師 日向野