役立つ話病気

麻酔のリスク評価について

こんにちは、今年最後は麻酔に関するお話をしようと思います。

麻酔と聞くと、リスクがどれくらいあるのか、うちの子は大丈夫なのかと不安になる方も多いのではないでしょうか。特に、避妊や去勢手術はみなさんの多くの子が経験する手術ですよね。

しかし、実際にどれくらいの確率で、どんなリスクがあるのかというところがわかりにくいため、余計に不安になるという要素もあるでしょう。

そこで、そのリスクを数値で評価しているものをご紹介します。ASA-PS分類といって、米国麻酔科学会(American Society of Anesthesiologists)が定める全身状態の評価分類があり、獣医療でもこちらに準じて評価されています。

麻酔前検査の結果から以下の5段階に分類し、緊急性のある疾患の場合は後ろにEを付けます。

Ⅰ:健康な動物

Ⅱ:軽度の全身性疾患を有する動物(局所の疾患、新生子、高齢、肥満、短頭種など)

Ⅲ:重度の全身性疾患を有する動物(肺炎、発熱、脱水、貧血、心雑音)

Ⅳ:生命を脅かす重度の全身性疾患を有する動物(心不全、腎不全、肝不全、重度のショック状態)

Ⅴ:手術を行わないと生存が期待できない瀕死の動物(多臓器不全、DIC、重度外傷など)

また、それぞれのクラスに麻酔関連死亡率が調べられており、それぞれ、

クラスⅠ:0~0.3%

クラスⅡ:0.3~1.4%

クラスⅢ:1.8~5.4%

クラスⅣ:7.8~25.9%

クラスⅤ:9.4~57.9%

とされております。

また、麻酔が怖いから鎮静にするということも時々聞きますが、鎮静にも同様にリスクがあり、症例全体のデータでは、死亡率はそれぞれ、

鎮静:犬0.07% 猫0.12%

麻酔:犬0.17%  猫 0.26%

と決して安心できる数値ではないということがわかります。むしろ、しっかり麻酔をかけて、心電図、血圧、酸素化、換気、体温などのモニターをした方が安全性を担保できる場合もあります。

このように麻酔全体でのリスクを把握しながら、それぞれの症例の病気に対する手術リスクなどを総合的に考慮して、麻酔リスクの最終的な推測を行っていきます。

短頭種の子(パグ、フレブルなど)は、たとえ健康でも麻酔かけるだけでクラスⅡに分類されるので、驚きですよね。

ちなみに、ヒトでの麻酔に関連する死亡リスクは、0.002~0.005%のようです。

今後、獣医療がさらに発展し、ヒトにも引けを取らない安全な麻酔をかけれるようになればと願うばかりですね。

手術や検査に伴い麻酔をかけることになった際に、不安なことなどがありましたらいつでもご相談ください。

獣医師 木村(麻酔は効きが良いタイプです。)