胸腺腫
今回は『胸腺腫』についてのお話です。
胸腺とは
心臓の頭側で、胸骨の裏にある臓器であり、免疫におけるTリンパ球の成熟を担っています。通常は成長とともに退縮していきます。
胸腺腫について
前述の胸腺が腫瘍化したものであり、犬と猫ではまれな前縦隔という位置にできるものであり、前縦隔腫瘍のうち、犬では最も多く、猫ではリンパ腫に次いで2番目に多いです。通常はどの年齢でも発生しますが、特に犬では9歳齢、猫では10歳齢が平均年齢と言われています。
症状
胸腺腫による症状は、腫瘍による物理的な問題と、腫瘍随伴症候群による問題の2つからなります。
①腫瘍による物理的な問題
腫瘍が大きくなり、周囲の臓器を圧迫した際に、嘔吐、食欲不振、体重減少、咳、頻呼吸、呼吸困難などを引き起こします。
②腫瘍随伴症候群による問題
小型犬が多い日本ではそこまで多くはないですが、腫瘍随伴症候群として重症筋無力症、剥離性皮膚炎、高カルシウム血症、T細胞リンパ球増加症が見られることがあります。犬では重症筋無力症が胸腺腫の最大40%に発生すると報告されており、猫でも報告があります。これにより、巨大食道症と誤嚥性肺炎を併発する恐れがあります。
診断
主にレントゲンにて前縦隔に腫瘤を疑う所見が認められます。腫瘍が小さい場合は偶発的に見つかることもあります。続いてエコー検査にて腫瘍を確認しますが、猫で一番多い前縦隔腫瘍のリンパ腫は充実性、胸腺腫は嚢胞状に観察されます。その後細胞診を行なった後に、手術適用かどうか判断するためにCT検査が実施されます。

心臓頭側にレントゲンで白く映る

エコーで嚢胞状の構造物として見られる
治療
胸腺腫の治療では、根治治療として外科手術、腫瘍の縮小を目的とする場合は放射線療法が挙げられます。第一選択は外科手術ですが、動物が高齢や様々な理由で麻酔が不可能な場合はプレドニゾロンが使用されることがありますが、腫瘍が縮小または維持される可能性はありますが根本治療にはなりえません。
外科手術の生存期間中央値(50%の症例が生存している期間)は犬で790日、猫で1,825日という報告があります。一方、放射線療法においての生存期間中央値は犬で248日、猫で720日です。これらの報告から手術が適応な症例では手術を実施し、適応でない症例は放射線あるいはプレドニゾロンの投与を行うことが推奨されます。
手術で治療された症例は、病理検査で浸潤性が認められなければ、根治治療とされることが多いですが、一部の症例では再発や胸腔内播種が見られることがあります。通常遠隔転移はまれとされています。
胸腺腫においては根治可能な場合がありますので、もし見つかりましたらしっかり相談した上で治療選択をしていけたらと思います。当院ではペットドックという全身精査を行なっていますので気軽にご相談くださいませ。
獣医師 日向野