肝臓が悪い場合の麻酔について
こんにちは!やっと麻酔ブログがシリーズっぽくなってきましたね。今後もこのシリーズを膨らませていき、一人でも多くの方の麻酔についての心配を減らせるように頑張ってまいります。

肝臓の役割について
まずは、肝臓が悪いとはどのような状態なのかを理解するために、肝臓が担っている機能についてみてみましょう。
・代謝(アルコール、アンモニアの分解、薬物の代謝など)
・栄養素の分解、合成、貯蔵(タンパク→アミノ酸、ブドウ糖→グリコーゲン、脂肪酸→中性脂肪、コレステロール合成など)
・血漿タンパク質の合成(アルブミン、グロブリン、フィブリノゲン、トランスフェリンなど)
・止血因子の合成
・胆汁の合成
上記のようにたくさんの役割があり、生きていくうえで欠かせない臓器であることがわかります。では、これらの機能が衰えると、実際にどんな支障が出てくるでしょうか。今回は麻酔と関連する部分をお話ししたいと思います。
肝性脳症
肝性脳症では、肝機能が低下し、本来分解されるはずの毒素や老廃物が体内、特に脳に蓄積し、脳細胞に障害を与えることで、ふらつき、意識障害、痙攣発作などの神経症状が出てしまう状態になります。
この状態はかなり肝不全が進んでいる状態のため、動物の状態も悪いことが多いです。よって、麻酔をかけられないケースもありますが、それでも麻酔が必要な場合は、使用する薬剤の用量や種類を慎重に検討したり、麻酔周術期での神経症状をコントロールするための血圧管理、拡痙攣薬の使用など細心の注意を払って実施していきます。
使用薬剤の用量の調整を間違えると、薬物代謝が遅れることで深い麻酔になってしまったり、予定よりも覚醒が大幅に遅れるという事態になりかねません。
低カリウム血症
カリウムは、実はとても重要なミネラルであり、これが高すぎたり低すぎたりすると、不整脈のリスクにつながります。重大な不整脈が起こると、血圧は低下し、血圧の低下はすなわち、生命の危険につながります。これは、肝臓の機能が低下すると、体内のホルモン代謝が遅れることに関連するのですが、詳しい内容は今回は割愛します。
長時間の手術が想定される場合は、術前だけではなく、術中もカリウムを測定し、低下傾向があれば補充することで防ぎます。
低血糖
上記の説明で出てきたように、肝臓ではエネルギーをグリコーゲンとして貯蔵して、体が必要になったときに、ブドウ糖に戻して血液中に放出することで、各組織の栄養状態を保っています。(その他アミノ酸、乳酸、グリセロールなどからブドウ糖を合成します。)この機能が低下した場合、覚醒下ではふらつき、虚脱、痙攣などの症状が現れますが、麻酔中は測定しない限りわかりません。
知らぬ間に、神経系、心血管系と呼ばれる生命維持に必須な臓器の栄養が不足し、麻酔から覚めない、また術後重大な後遺症が残る可能性があります。
よって、麻酔にグルコースが含有されている輸液剤を選択したり、術中に定期的に血糖値を測定することで想定外の低血糖の進行を防ぎます。
低体温
体内で最も温度が高いのが肝臓と言われており、また、上記のような様々な活動をする過程でも多くの熱エネルギーを産生し、体温を保ってくれています。
麻酔中は、ただでさえ体全体の代謝量が小さくなっているのですが、肝臓が悪いとさらに代謝は少なくなり、低体温になりやすいのです。
麻酔中は、患者さんにブランケットをかける、室温を高めにする(術者には申し訳ないのですが、、、)、温風マットを敷いて温める、など様々な工夫で低体温の進行を防ぎます。
本当は全て紹介したかったのですが、ボリュームが大きくなりすぎるので、今回はここまで!来月も肝臓と麻酔について以下の後半部分をお話ししますのでお楽しみに!
- 低アルブミン血症
- 血液凝固異常
- 薬物代謝遅延
獣医師 木村(コーヒー1杯でその日は寝られません。)